夢国記/日雇いくん◆hiyatQ6h0c
 

 すげえやだ、と女は言った。
 通り掛かりの声だ。駅から家路を急ぐ間際、改札を出た後すぐに、ほど近い後ろの方角からそれは聞こえた。年頃の声らしい太いアルトだったが妙に甲高く感じた。振りかえる気もないではなかったが、やめておいた。最寄駅には改札口が一ヶ所しかないので、家へ帰るには、線路を伝って踏み切りを通るか地下道を通って線路をまたぐかのどちらかだったが、左ひざを傷めて久しい身には、規則的に鳴る鐘の音を聞きながらただ待つがよかった。進む方向が一緒なためか、不機嫌なアルトが追い掛けてくるのがわかったが、携帯電話で話しているのか、応じる声はなかった。強制的に聞かされている言葉はいかにも若者らしいく
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