「波の声をきいて」(10)/月乃助
 
海峡にやって来るアシカ達は、岩礁の上で一日中、うるさいほどにアオ、アオ、アオと鳴き声を上げた。その声が鳴り止まずに、Sayoは冬の風の中、磯まで行き、何度もどなりちらしたことがあった。
 アパートのマネージャーのミセス・ロスの顔を思い浮かべ、少なくとも、鳴き声でアザラシが部屋にいることを知られる心配はなさそうだと安堵していた。
「早く治ってもらわないとね。あたしだって仕事があるんだからね」
「大丈夫、そんなにひどく痛まないって。体の方は、ほら、こいつ脂肪が厚いじゃない、だから、ちょっとくらいぶつかったりしてもダメージは大きくないみたいだし。昨日は多分、精神的なショックの方が大きかったと思うよ
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