濁流/within
 
巡りがよくなったせいだと思い込み、コップの底にわずかばかり注がれた安酒を、ちびりちびりと惜しむように飲んだ。
 夏には蚊帳を吊り、祖父と祖母の間に陣取った僕は、祖父の創作した昔話に耳をそばだてた。それは、桃太郎を模した人参太郎だったり大根太郎だったりしたのだが、機嫌よく話す祖父の語り口にひどく安らぎ、いつもなら夜、眠りにつくのが苦手な子供だった僕も、いつの間にか眠り込んでいた。
たまに親が迎えに来れないときには、祖父のカブの荷台に跨り、大きすぎるぶかぶかのヘルメットを被り、風の流れる心地よさを知った。
高校受験を迎える頃には、祖父から面接試験のイロハを授かった。
「まずはシャンと背筋を伸ば
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