濁流/within
 
ことがあった。まだ小学校の低学年で、母親に連れられるまま訪れたのだが、家の中はしんとしていて、ベッドの上で眠る年老いた「おじいちゃん」と呼ばれる末期を迎えようとしている老人は、父方の祖父でも母方の祖父でもなく、傍にいたおばさんに「手ェ握ってあげんかいな」と促され、何の思いもなく無心に触った皺だらけのやつれて細くなった指は、僕の手よりも温かく、握り返されることはなかったが、まだ残る生の灯火を感じたのを今でも覚えている。
 それからどのくらい「おじいちゃん」が生きたのか、いつ逝去したのか全く報せが僕の耳に入ってこなかったせいもあり、その只一度きりの「おじいちゃん」には死の実感がない。

 祖父は
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