「波の声をきいて」(8)/月乃助
らだっていることもあるし、まして、アザラシの歯は魚を噛み切るほどの鋭い歯をしてるじゃない。奥歯で貝を噛み砕く様子はSayoも何度も見てきた。娘の指を食いちぎることなど簡単だろうに。
それでも、それが起こりそうもないとSayoは、Hiromiの顔を見ていた。この子もまた、海の子らしい。
部屋はどこか潮の香りと動物の臭いがあった。夕食の食器を洗いながら、それは昔よく嗅いだものなのに、今は、それを懐かしく思うほどの時が過ぎてしまったようだった。
アザラシを見に行くと、左の前ひれが動かせないように大きな灰色の、Hiromiがサッカーの時に使っている胸を保護するサポーターをしていた。
少し落
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