「波の声をきいて」(5)/月乃助
 
のすぐ横に行くと、すぐにその顔を見つめた。それは、どうやらSayoには見覚えのないハーバー・シールのようだった。まだ息があるのは、ひげが動くのとぐっと閉じている口から、わずかに笛を吹くような呻きの音がするのでわかる。灰色に黒い不定形の判を押したような模様の体は、ほとんど乾いていて、水から上げられて随分と時がたっているのが分かる。
「あんたら何やってんの、そのアザラシまだ生きてるじゃない」
 男達は、白いブラウスに黒いタイト・スカートの若い女が恐ろしい剣幕で二人に食って掛かるのに驚き、一瞬息を呑んで女の様子を見つめた。でも、すぐに動物愛護を訴える感傷的な学生を蔑むような目で、
「こいつが勝手に
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