「波の声をきいて」(3)/月乃助
 
も湯も使い放題だった。洗濯も海水を汲んでくる必要もなく、地下にコイン・ランドリーの部屋があった。
 Sayoは、今でも熱い湯を張ったバス・タブに体をつけた時の感覚が忘れられない。
 アパートにやって来たその最初の日の、最初にした事だった。それは、箱に詰められた食器や服を出すよりもなによりも初めにしたことで、Sayoが子供の頃、両親と一緒に住んでいた頃には、確かにそんな風呂に入っていたのを思い出した。
 娘は母親を横目に、引越しの箱の中にうずまるように椅子に腰掛けて、窓から見られる建物のひしめく町の様子と遠くの森の丘を見ていた。 
 潮の香りのない部屋は、アパートのマネージャーがしたのかカー
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