初秋/古月
 
三階階段の縁から身を乗り出して
手を振るのは逆光の天窓を遮る影なのです

その振り子運動の往復に眼球が催眠される瞬間
私は階段の縁に手も掛けず三階下を覗き込み
爪先も触れぬ一個の天秤の両端であり

頭の中では頻りに鳥が啼い、て、て、て
五色の羽根を広げ私の口を借りて声高に
曰く
一九三七年十月十五日初秋
侘三井郡那斐寺字能上、稲田の上稲田の井戸の
つめたい死体の見ゆるは神通力のお告げなりと、
祈祷師などと、詐欺師、ペテン師、女狐、毒婦、
田鶴子などと、淫乱、売女、股割れ、阿婆擦れ、
あの女が、あの女が、

三階階段は逆光の燦燦と降る、る、るに支えられ
往きつ復り
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