初秋/古月
 
復りつの影は脳の空ろを鷲掴みにし

嗚呼、眼球の調子、具合が酷く、悪い、心持ちがする、
脳髄が視神経を、軋々と、曳き絞る、れば
黒目は面白い、ほどに裏返、り、り、り

五色の羽根が脳の其処此処から生えてきて
私を思い思いの方へと連れて去ろうとするのです
私は容易く浮く爪先を廊下に押し留めようと
抵抗するも敵わずに口を開けば田鶴子、田鶴子、と
つめたい井戸の底の、何ず処に、淫売、淫売、

その振り子運動の往復に眼球が催眠される瞬間
私は階段の縁に手も掛けず三階下を覗き込み
爪先も触れぬ一個の天秤の両端であり

五色の羽根は天窓の白光の燦燦と降るに手摺を跨ぎ
田鶴子は淫売、詐欺師、ペテン師、稲田の上稲田の
つめたい井戸の底に翻る身を階下で見つめる私へと

三階階段の縁から身を乗り出して
手を振るのは逆光の天窓を遮る影なのです
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