「あざらしの島」(3/3)/月乃助
 
通な仕事の、普通なセックスをする男だった。
 だから、女のことを分かることがなかったのだろう。男は、波の音も、海の声も、区別ができずに、まして、それに意味があるなど分かりようもない人だった。
 それは、まだ、女が港の小さなヨットに住んでいた頃の話で、子供も生まれる前の話。
 女は、もうその男がこの町にいないのを知っていた。
 小さな港町は、隣国から海路で来る観光客用にレストランやカフェにホテルが数軒あったが、雑貨屋と食料品店は一つづつしかなく、店は通りの二ブロックを埋めるほどの数で、教会の近くにあるベーカリーは奥がポスト・オフィイスにもなっているような町だった。
 男が去った後、女はひど
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