無題/影山影司
ただでさえ濁って見えにくい視界を覆い隠す。
もちろんそんな環境で生きている魚など、殆どいない。多くは皮膚の下からぶくぶくと浮き上がる水泡に全身を包まれて死んでしまった。初めはその屍骸をほぐして食っていた同種の魚たちも、不潔な環境に耐え切れず似たような病気にやられて死んでしまった。今、この水槽の中に生きているのは一種の魚だけだ。浅黒く、南米だかどこかが原産の、濁流でも生存できる種類。
ほんの三ヶ月前まで、金持ちの別荘に置いても引け目を取らないほど美しかった世界は、すっかり崩壊してしまった。多種多様な魚は死に絶え、丁寧に刈り取られた水草は生い茂った。何故か。簡単だ。世話をせず、時折えさを一掴み
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