月夜の口笛 /服部 剛
 
終電のすいてる車内の空席に 
リュックサックを放り投げ 
転寝(うたたね)をする僕に 

(ちょっと・・・邪魔)と言い 
わざわざリュックをどけて座り 
草臥(くたび)れスーツを脱いだ
酔っ払いのおじさんに 
さすがの僕も むっ として 
ちらりと顔を見た後は 


  どぅどぅどぅ・・・ 
  どぅどぅ・・・ 
  どぅ・・・ 


繰り返しながらゆっくり 
気持を鎮めていたら 
次の駅でおじさんは 
ふたたび萎(しお)れたスーツの袖に手を通し 
開いたドアを通り抜け 
禿げた頭にゆげを昇らせ 
無人のホームへ下りていった 


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