ナスターシャ/Nasturtium/月乃助
 
手にあまる
廃屋の残照
すぼまり 壁のない木の間で
林檎の古木は やせて
皺寄せた彩雲にのばされた からまる腕

実生の木 は、
今 ほろほろと 終わりを迎える
小さな青い果実を せいいっぱい 生み出しながら
いくほどの残された生気を 与えているのか

おどける
おろかな駒鳥たちは その酸味の意味を解せず
楽しみ さえずり止まない

でも、知ってしまった 消え逝くものの美しさ
に、心をいため
自らの 優しさがゆえに とまどう
きみは
もう林檎に 手をのばせない

だから、
木の下にひろがり 
秋をちぎった 午后(ごご)の
ナスターシャの花を口に
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