「ヴィヨンの妻」太宰治/小川 葉
、
締めくくりのあの言葉ほどゆるしと希望に満ちているものはない。
もはや聖母である。
不思議なことに、つきあってから10年近く連れ添った今の妻と、
結婚する少し前くらいから、
後期の太宰を読むようになっていた。
三十半ばくらいからの太宰の作品がとても好きで、
むしろ中高校生くらいの時に「人間失格」を、読書感想文用に読むよりも、
人間まるごと共感できた気がする。
とりわけ、新潮文庫の「ヴィヨンの妻」を愛読した。
捨て作品がない、その中でも、「母」「ヴィヨンの妻」「家庭の幸福」そして「桜桃」へと、
流れていく構成が、三十半ばの男には等身大な共感および衝撃
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