戦争を捉える方法 −奥主 榮詩集『日本はいま戦争をしている』−/大村 浩一
 
だれ肩をおとしていたわけではない
砕けた瓦を踏みしだき前へ前へと差し出される
口の開いた鞄の中に鰊の匂いが滲もうと卑屈にならず
襤褸をまとった体からも歌は唇を押し開き溢れ出す 突き出した
親指のふくらみにむしろ滑稽さすらおぼえ
だから弾けるように笑みこぼれ
それほどにたくましく明るく人はまだふるまえるのだから
あおく たかく すきっぱらにひびくように広がるそら
どこまでも遠くへと弧を描き投げ上げるいのちのたぎり

列車の座席を引き剥いだ布を手に持ち
刻印を不吉な徴のようにあらわした足台を抱え そこに糧を頼る
足音高く歩く大男は身をそりかえらせて
新時代の軍票を大鉈のように
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