帰路/夏嶋 真子
 

商店街にさしかかる。
塀の上でいつもの猫が、
「また、おまえか。」
という顔で私を見下ろす。
「教授」とわたしが勝手に呼んでいるどこかの家の飼い猫。
本当の名前はぴょん太だということを、近所のこどもたちが教えてくれた。
(ぴょん太教授、携帯で写真を撮るのもこれが最後です。どうか元気で。)
声に出さないひとり言がついつい長くなるが
猫は素知らぬ顔であくびをしている。


記念撮影を無事終えると、お腹の虫がなる。
甘くて香ばしい匂いにつられて鯛焼きを買った。
店のおじさんと、
「たべるなら頭からか、尻尾からか?」
そんな他愛ない会話の中で、今までどれだけ笑顔をかわしたこ
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