一時閃光/影山影司
 
にかける。

 ここにいる下読みは全て四国にある再生紙工場で栽培されたものだ。新聞だとかチラシだのを原料にした粗悪なパルプで育てられたものとは違う。小説や文芸誌だけを溶かした古紙パルプ、つまり純粋な文学液をたっぷりと与えられて育った優良品だ。文学液の原料は、大手古本店の売れ残り品だ。汚れすぎたり、在庫として一定期間保存されて売れなかったものが毎日大型車で運ばれて、特別な機械で一字一字バラバラに溶かされるのだ。新人の頃見に行った工場は、圧倒的だった。独特の臭気、精液のような粘液に浮かぶ文字、そしてそれを血管に注がれる下読み。
 体験ルポでしか知らない世界を目の当たりにして、「あぁ俺も編集者にな
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