一時閃光/影山影司
 
になったのだ」と感じた。

 机の上にお茶のペットボトルを一本ずつ並べていく。下読みは胃袋を持たない。だから食事は必要ないのだ。かいた汗の分だけ水分を摂り、栄養を使い果たしたら死んでいく。その刹那の生き様は昆虫や兵隊のようだ。
 窓の外では蝉の声が喧しく、陽の光がギラギラと降り注いでいるが室内は少し肌寒い。下読みのために冷房を強めに設定してある。今日から一ヶ月、彼らは文字通り命を削って小説を読み続ける。
 一次選考が完了して、どれくらいの作品が残るだろうか。十五作は残って欲しい、と毎年思っている。小説を読むために生まれてきた下読みが、その一生のうちにたった一作もちゃんとした作品を読めないのでは、あまりに切ない。

 一生のうちに一作、心から満足する作品を味わって欲しい。
 自分は、そんな気持ちで編集者になったのだ。
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