一葉の札/光井 新
健気な妻の事だ、きっと自分よりも一人息子のために、と言うに違いない。そんな台詞をわざわざ言わせてしまっては、妻の誇りも私の誇りも、この五千円札の持つ価値も、すべて汚してしまう結果になりかねない。
では、大事な大事な一人息子のために使うとしようか? まだ七歳の子供には、大そうな誇りというのを持たせるのは少し早い。それよりも何よりも、今は少しくらいのわがままを持って、この頼りない父に甘えて欲しいなどと、他人様から「宮澤賢治のようだ」と言われる私にも少しばかり、父としてのわがままがあるのだ。カーボンなんかでできた立派な釣竿でも、買い与えようかしら。食卓に魚が上がる回数が増える事を期待するというのもあ
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