嬢とジョーと時々モヒカン/影山影司
程距離まで引き剥がさなくてはならん」
ジョーの野生の本能が、僕の掌に蹴りや殴打を繰り返す。
「僕は、君の母さんと、こうやって語り合ったんだ。君にだって伝わるはずだ」
僕は博愛主義者だったが、ジョーは親以外の愛情を知らぬのだろう。引き剥がした手に、また噛み付く。噛み付いては、ざらざらの舌で舐め、舐め、舐め、奥歯で噛んで、舐める。
ジョーはこれ以外の言葉を持たないのかもしれない。捕らえて噛み付く、それが彼の意思なのだ。撫でられたり、抱きかかえられたり、それは彼にとっての言葉ではないのか。丸めた背中が、勢い良く地面の上で跳ねる。前足で僕の手を固定して噛む噛む噛む。パウンドを堪える格闘家を思
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