嬢とジョーと時々モヒカン/影山影司
 
ないわね」とガレージに引っ込んだ。白猫のジョーはやはり頭が悪いのか、逃げるタイミングを逸したのか、僕のほうをじっと見つめる。彼の目線の先で、僕は手をゆっくりと振ってみる。母猫の尻尾や、皇族の手振りを真似て。案の定、ジョーは僕の手に釘付けだ。ゆっくりと手を下ろして、地面すれすれで振ると、ジョーは飛びついた。爪の伸び過ぎた前足、鋭い犬歯。座右の銘は『全力投球』なのか。あまがみなどというレベルではなく、骨でもかじるみたいに僕の中指に齧り付く。予想外に鋭い、肉を噛み切りそうな牙の感触にドキリとする。慌てて手を抜いて、親猫を懐柔した手でジョーを撫でる。

「ゼロ距離の敵に対し、俺の牙と爪は無力だ。射程距
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