陽炎/柊 恵
戸が開いた。
「お父さん!」
驚きの表情が、
満面の笑みに変わる。
「おはよう」
「おはよう、小林さん」
狭い玄関で両手を上げて、なんて素直な喜びの表現なのだろう。
そのまま抱き付いてきそうな勢いだ。
ハイタッチして、
「行ってきます」
「行ってらっしゃい…明後日もっと早く来るね」
「じゃあ明後日、楽しみにしてるよ」
「うん、私も」
紅実よりも私に なついているかも。
「お父さん…」
苦しそうな息を堪えて娘が呼びかけてくる。
「お父さん、お願いが有るの…」
「どうした、チナ?…」
どんな意味の夢なのだろう…。
その中
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