蕎麦屋の蕎麦はそれでも君を待っている/ふくだわらまんじゅうろう
 
ことのできる盃と言ったら!
それでは君のために屠られた馬たちも浮かばれようがないというものじゃあないか!
だけど私は知っているのだ。君が
どんなにあの爪楊枝を愛していたかということを!
中庭の見渡せるあの席を!
冬の火鉢の炭の匂いを!
蕎麦茶の出涸らしの出涸らしの出涸らしの!
その恋みたいな惨めな結末を!
太陽が降り注いで降り注いで降り注いで!
あの蕎麦畑に辿り着くまでの長いようで短い旅の思い出を!
石臼に擂り潰される労働者たちの怒りと悲鳴を!
ああ、もう一度あの青春へ、青春へ、青春へ!
それにしても君がこの罪の巷で見つけたものと云えば!
なんと後ろ暗い交接の繰り返しだっ
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