蕎麦屋の蕎麦はそれでも君を待っている/ふくだわらまんじゅうろう
 
だっただろう!

だからこそ蕎麦屋は今日もまた
君のために蕎麦を打っているというのだ

だけど君は見失ってはいけないよ
見失ってはいけないのだよ
ただ分厚いだけのステーキで作り上げた肉体と精神と
脂汗と腋臭と香水と
一夫一婦制という奴隷制度の巻き返しと
離婚という名の調節弁からなるこの文化を受け入れざるを得ない
植民地に生きる我らが魂の本音を
君は見失ってはいけないのだよ
だからといって鰻屋で
鰻屋の二階で
盃を傾けて
ときには女の尻など撫でて
すべて忘れたふりなどをして
「愛国心とはけして
他国を憎む心などではない」などと心に
心に叫んで
血を吐いて
[次のページ]
戻る   Point(5)