短歌と文法、詩と文法/非在の虹
 
上にとどかざりけり

このナイーブすぎる吃音調、上の句の「みじかれば」まで読んで、平安の貴族であれば、愕然として失笑するだろう。いや、意味がわからないかもしれない。平安貴族たちにはこのようなことば使いはしない。
しかし、子規が真のポエジー、より現在の、彼の生から生まれるポエジーを表現するには、上代の人々の約束事である掛詞や枕詞は、なんとしても排除しなければならず、それに対抗しうる調べとして、かくまでもポキポキした無味乾燥の、目に見えるままを持って来ざるを得なかった。
今、調べということを言ったが、これがわたしにとってもっとも重要なこの定型短詩の生命だと思っている。調べとは、音楽と言ってよい
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