教育について/パンの愛人
ない。あらゆる人間が生得的に論理的な思考能力を持っているかどうかは、おおいに疑問であると思う。だとすれば、渡邊氏の論旨を真に受けると、そのために教育の契機が見失われてしまう可能性がけっしてないとは言えないのである。
また、渡邊氏の主張は、相手の感情的、生理的な言動にたいしてはまったくの無力である。渡邊氏は「相手の理性の中での論理的帰結として、相手はその『間違い』に至っているのである」と言うが、私たちの振舞いがつねにそのように論理的なものであるとはかぎらない。それは、環境からうけた暗示に由来するものであるかもしれないし、ただの習慣の結果であるかもしれない。精神分析風に幼児期の経験にその原因を
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