生きていることのめぐりを感じる詩集 続 安藤元雄詩集/イダヅカマコト
ももう鳴かない
かつてあの広場で 憂鬱な歩哨のように
おれの通過を許してくれたこおろぎだが
広場の先はつめくさのともるバリケードだった
仮面をつけていなければ入れてもらえなかった
その中で おれたちはみなごろしになるのをじっと待っていたが
装甲車は街角からひょいと顔を覗かせ
暫く睨んでから黙って引き返して行った
あの装甲車も緑色だったな
カドミウム・グリーンではなかった筈だが
おれの記憶の中ではやっぱりあいつもカドミウム・グリーンだ
カドミウム・グリーン 死と復活の色
舗道にぼんやり突っ立っているおれの前へ
戸口から若い女が一人 ひょいと出てくる
若い いや幼いとい
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