折り返しのある男/atsuchan69
 
あることが判る。だから、せめてコートはダッフルでも羽織ろうとクローゼットの前で一瞬手をのばそうとまでしたが、どれほど寒かろうが、もう三月だということと吊るされたままの樟脳の匂いが気になって結局いつもの丈の短いシングルトレンチを選んだ。

 妻はといえば、ペイズリー柄のシルクのスカートと軽い毛織のジャケットに、薄いピンク色のコートを合せていた。足元を覗くと、あまり踵(ヒール)の高くないフェラガモのパンプスを履いていた。いつ何処で買ったのかさえ知らず、さして興味もないので判らないが、たぶんバッグもフェラガモで、靴の色はネイビーなのにバッグの色はピンクだった。

 それが一体どうしたというのだろ
[次のページ]
戻る   Point(11)