非在のかたち/岡部淳太郎
の真剣な答えにならざるをえない。だからこそ、答は時に遅れ、そのために僕たちは道に迷う。それも生のひとつのかたちであると、達観できるほど僕たちは大人ではないし、立派でもない。他者に対して呼びかけるのが森や草原などの大きな場所で声を張り上げることだとすれば、自らの中に呼びかけるのは、暗くてその奥がどうなっているのかわからない洞窟に向かって声を上げるようなものだろう。虚空への呼びかけ。それを僕たちはみな、人知れず自分でも気づかぬうちに行なっている。
こんにちは。
こんにちは。
そうして呼びかけた声が、かき消される時がある。それは、僕たちがここに確かに在るということを、証明出来ない時だ。僕たち
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