絶望についての対話(1)/Giton
 
けられ、牧童をしておりました。
 Ηというその男が近づいてきた時、私には、詩神そのひとが天下って来たように思われました。彼が自らラウテを爪弾き謡う伝説の数々は、私をムーサの虜にしてしまったのでした。私は、彼の求めるままに、年端の行かない私自身を彼の自由にさせただけでなく、親戚から預かっていた羊の絨毛も毛皮も、備蓄したチーズも小麦も、すべて彼に差し出してしまったのでした。
 ところが、Ηは正業にも就かないのらくら者で、私からせしめた物を売っては、デルフォイの聖娼のように美しい女たちを身の回りに侍らせ、あちこちと散財して歩き、ときどき私の寝泊まりしている出小屋へ来ては、金になるものをせびり取って行
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