人魚・終 〜開放〜 【小説】/北村 守通
「昔、むかぁし、ある年老いた漁師の網に、一人の人魚が掛かってしまっていたんですって。」
語り部となった彼女は天を仰いだ。当然そこには空はなかったが、それはあくまで私の様な現世の者にとっての話でしかなかったのかもしれなかった。そして彼女は、私にではなく天に向かって語りかけていたのかもしれなかった。私は黙って傍らからそのお話を見守った。口を挟む余地は無かった。
彼女が語って聴かせていたお話というものは、私も小さい頃に聞かされた童話だった。漁師に救われた人魚は、お礼に漁師夫婦の娘として彼等の手助けをする。娘となった人魚は、夫婦の家計を助けるために蝋燭を作り、売り始める。この蝋燭には魔法が込
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