人魚・3 〜対話〜   【小説】/北村 守通
 
た。」
彼女の視線が私のほうに戻された。
「あなたはこうもおっしゃりました。『見えるの?』と。触ることも出来た。つまり実在するであろう物なのに。」
私はもう少し続けるべき言葉を捜したが、彼女の指先がそれを遮った。きっとそれで充分だったのだろう。私には求めている答えがどういった類のものであるかということについては、あらかた想像はついていた。問題なのはそれが意味しているものだった。彼女には時間が必要だった。私は、彼女がどことなく悲しげに見えるのは、それは決して悲しみなのではなく、憐れみだったのだと、この時ようやく気がついた。
 その憐れみを蝋燭に向けながら彼女は静寂を破った。

「現世には
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