人魚・3 〜対話〜   【小説】/北村 守通
 
には見えない物。そして存在しない筈の物。望まれずして産声をあげてしまった物。それでも火を灯し続ける。誰の為というわけでもなく。そして火の勢いが強くなって、誰かがこの蝋燭に灯る火を見つけてしまったとき、海に災いが招かれるのです。誰も消すことのできない火なのです。」

 私は、もう一度蝋燭の方に目をやった。何処にでもある様な蝋燭であったが、この部屋に案内されてから、蝋燭を立ててみてから何か不自然なものを感じずにはいられなかった。それは、決して短くなる様子のない、ということでもあったけれども、真相はもっと別のところにあることに、再度の観察から気がついた。

 蝋燭には影が無かった。

 蝋燭の火に照らし出されているもの、勿論これには影がある。だが、この蝋燭自体の影はまったく存在していなかったのである。私は納得し、その後続けられるであろう彼女の解説を待った。彼女は少し微笑んでみせて、私の心の準備を確認した。私も合図を送った。
 風は以前にも増してその勢いを強めていた。
 時々、建築物そのものが揺れ、炎もそれにあわせていた。
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