人魚・3 〜対話〜   【小説】/北村 守通
 
には至らなかった。私達は視点を再びカップに戻し、これから何を話すべきかを考えた。差しあたっては私が自分自身が何者であるかを話しておくのが筋であるように思われたので、その考えに従うことにした。私が海中から回収してきた物質についてを語るにはまだ早かった。
「今、何時くらいかしら。」
反射的に私は自分の腕時計を確認したが、持ち主に相応しい値段で購入されたそれは、潮水をたらふく飲んで溺れていた。死亡時刻は二十二時四十三分だった。そして、そらからもう四十分ほどが経過しているのではないだろうか、と彼女に告げた。彼女は大きくため息をつくと、決心した。
「今日はここで泊りね。」
そして私にもそうすることを
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