人魚・3 〜対話〜 【小説】/北村 守通
かったのは私だけなのかもしれない。
どれくらいが経っただろうか、私はもう一つ、彼女が声を掛けるまで実行しようと考えていたことを思い出した。結果、最終的には当初の目論見は見事に裏切られて、やはり頬も波に打ちつけられることとなってしまったが、視覚だけでなく触覚もまた、その存在を認識することができた。得られるべき情報は全て手に入った。ただ、彼女以外を除いては。
波が不意に私の背中を押した。
心の準備が整っていなかった私は、重心を崩され前に進み出るしかなかった。
「持ってきてしまったの。」
私が知り得るもっとも悲しい色で、彼女の澄んだ瞳は私の左手に握られた円錐状の物体を見つめていた
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