人魚・1 〜接点〜 【小説】/北村 守通
そして雲さえなかった夜のことである。
その日、彼女が私のことを知らなかったように、私も彼女のことを知らなかった。そして、私は彼女のことを知りたいと思った。私の足は不思議なほどに当然に彼女の方へと向かっていた。
彼女は、海の中に居た。
正確には靴を脱ぎ、膝まで海に浸かっていた。その目には焦点というものが存在せず、感情的な要素を判断しうる外的な基準を見出すことは難しいように思われた。しかし、それは逆に劇的な、突発的な感情といったものとも(例えば自分の許容範囲を超えた偶発的な絶望などといったもの)無縁の様に思われた。
海水というものは、特に浜辺に打ち寄せる海水というものは、見
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