歳ととることについて考えさせてくれる詩集 壷坂輝代『探り箸』/イダヅカマコト
 
の決断

卒寿の身体に
はじめてメスが入る
四人の子の
いのちの根を太くした
その乳房に

手術室の前で
横たわったまま母はほほ笑んだ
ほほ笑み返したわたしの言葉が
閉まりかけた扉から
母を追いかけていった

麻酔からさめない母の
手を握る
庭の木立ちが
あたらしい緑を輝かせて揺れている

とつぜん
母がもつれた声を発した
―ありがとうございました
  ありがとうございました
両手を
ぎこちなく胸の前で合わせている
いのちがほどかれたように


「四人の子の/いのちの根を太くした/その乳房」と、強調された「乳房」にメスが入ることへの感慨があ
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