クロスレット・シルバー /いすず
せつそうに首にかけ、千尋を見た。くちびるの動きだけで、ありがとう、と刻む。
「まだ、声が出せないのね」
ためいきのように姉が呟く。「だいじょうぶだから。それはお守りだよ」
そっと千尋が言うと、にこっと笑って、きゅっとクルスを握ると、羽鳥は駈けていってしまった。
「あの子のあんな笑顔、はじめて見たわ」
姉が呆れたように見送って、歩きながら言った。
「僕、千尋って言います」
「わたしはあの子の姉の美雪。近くのカフェでアルバイトをしているの。よかったら、うちに来ない?」
美雪がちょっと微笑んでささやくようにいった。「だいじょうぶ。あの子のたいせつなお友達を、歓迎しないようなお店じゃないか
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