クロスレット・シルバー /いすず
鳥、この子がひとりではなしているのを聞いたの。この子は少しわけがあって、木々や金魚とか、自然のものにしか今は心を開かないでいるの。きみ、この子があまり話さないのを知っているでしょう?
羽鳥の病名は解離性障害といって、ふとしたことで心あらずになってしまうの。ひとりでね、傷をかかえている。誰にも、入れない痛みなの。でもね、だいじなのは、ひとりの人間として扱ってもらえることなの。きみ、ありがとうね。羽鳥も安心してしてたようだし、よかったけれど、でもね、もう、こんなふうにひとにたよっちゃだめよ。お姉ちゃんと帰ろうね」
「あの」
千尋は、ぼろのまま、薄汚れたほおをぬぐいながら、羽鳥に似て美しい、長い髪
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)