クロスレット・シルバー /いすず
せて、どこかへ埋めないとね、といった。
「お庭は駄目なの。父と母が、」
かのじょがか細い声で、やっとそれだけいった。
「いいところを知っているよ。いっしょにおいで」
千尋はかのじょをうながして、リヤカーを曳きながら歩いた。外の風がひんやりとしていた。
しばらく街のなかをぬけて歩き、かれが夕餉にするさかなを釣る川べりへ出ると、葦の生えた川岸の土をそっと掘った。土は重くしめっていた。てごろな木切れをさがして埋めたあとに立て、ひざまずいて黙祷した。少女もこうべを垂れていた。
「ここへはいつも来るよ。だから、誰にも荒らさせない。安心しろ」
かのじょはこくりと、ただ眼を瞠ってうなずくのだった。
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