クロスレット・シルバー /いすず
あと、千尋はとっておきの薄汚れた指人形を出して、少女の傍に歩み寄った。そのつぶらな眼が、ふしぎそうに千尋を捉えて、じいっと見つめた。吸い込まれそうな眼だった。
「もしもし。なにかあったの」
お人形のかわいらしい首を振り、あかいほっぺに手をやりながら、元気な声で千尋はいった。
少女は黙っている。
「おとうさんとおかあさんは?」
まだ、黙っている。
「どうして、泣いているの?」
そういうと、少女は、わずかに、膝の上で伏せていた掌を開けた。ちいさな一匹のグレー毛並みのハムスターがこわばって死んでいた。
千尋はつぶれたテッシュの箱を出してきて、ぼろきれを敷き、ハムスターのなきがらをねかせて
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