クロスレット・シルバー /いすず
くのかけらを一本出した。いっしょに差し出す。
「火の元、気をつけろよ」
いくらかつつもうとするおじいに、千尋は、手で押し留めて首を横に振った。
そのままリヤカーの荷を担ぐ。
「いつも悪いの」
手をふりながら背をむけ、次のテントまで千尋は歩いていく。
日に稼ぎはすくなくとも、誰かの役には立っている。それを大切にしろよと、最後はホームレスでなくなった父も言っていた。食うだけの金さえあればいい、食うだけの稼ぎがあればいい。あとは、神様にまかせろ、と。
ぼろをきて、誰にもふりむかれない千尋でさえ、野の小鳥や百合を装う神の存在は、幼心にきかされて育ち、神のみこころにかなうように生きられるようさ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)