「オルゴール」 (リレー小説・三題噺)/佐藤犀星
葉を少しずつ覚え始めた。そしてある日私の目を見つめて、「付き合ってほしい」と言った。(佐藤・2回目)
本当に嬉しい時は、言葉にできないとこの時知った。私はただただ呆然としていて。そうするうちに少し時間が経っていたらしい。彼は不安そうに私を見ていた。私は慌てて彼を抱きしめた。そんな目をさせたかったんじゃない。私は嬉しかった、彼も同じ気持ちでいることが。彼は私を柔らかく抱きしめ返してくれた。
数ヵ月後におじいさまにその旨を伝えたら、とても優しく笑ってくれたことを今でもよく覚えている。
何年も、前の話。
今はあるのは、主を失った数々の洋書と、変わらずに時を刻み続ける時計と、埃をかぶっ
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