「オルゴール」 (リレー小説・三題噺)/佐藤犀星
 
微笑み、そっとてのひらにオルゴールをのせてくれた、始まりの日のことだった。(モリ・2回目)

 彼はずっと窓の外を見ていた。おじい様はオルゴールを流して、ただ黙って微笑んでいるだけ。あの人とは、それっきりその日は何も話さなかった。
 けれど次の日もおじい様の部屋に遊びに行った。その次の日も、次の日も、おじい様と彼に会いに行った。おじい様はいつも私たちの間にオルゴールを置いてくれた。
 あの人は私たちと同じ言葉を持っていなかった。だから二人は、手や唇を動かして何かを伝えようとした。何もかもが伝わらないときでも、オルゴールの音色がその部屋とその時間を作ってくれた。
 やがて彼は私たちの言葉を
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