君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
くのを感じた。思わず鼻の奥がジンとする。
 でも泣いてはダメだ、また「心配」される。
 林檎丸々一個を胃袋に収めてすぐ、母の手編みのカーディガンを寝巻きの上に羽織りつつ、ベッドから立ち上がった。
「どこ行くの?」
「ちょっと散歩。寝てばっかりもあれだしさ」
「それなら、お母さんも一緒に……」
「ああ、良いよ良いよ。病院の中を適当にぶらつくだけだし」
「あ、そう……気をつけなさいね」
 私に、両親を心配させる権利なんて、傷つける権利なんてない。そういう傷を背負って、これからまだ生きていくのは彼女たちの方なのだから。
だから、私はまだ笑っていよう。どんなに苦しくて、どんなに涙したいと
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