君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
つかせる。
それを奪うのは造作もない。男の子が女の子に向かって舌を突き出した瞬間に、ぬいぐるみの腹部を素早く掴み取り、それを顔の前に掲げて繁々と眺めた。それほど可愛いわけではないが、何というかぬいぐるみのくせに味のある顔をしている。少し薄汚れた様子から、どれほど持ち主が大切に持ち続けたのかがわかる。そういえば私にも、小学校の低学年くらいまで、大切にしていたウサギのぬいぐるみがあった。もし、この病院から生きて戻ることがあるなら、押入れの奥から彼女をまた引っ張り出してこよう。
しみじみとしている私に、下方から注がれる視線は、訝しさと驚きが入り混じったような複雑なものだ。私が我に返り、小さな二人に顔
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