君の背中に追いつかない/秋桜優紀
に顔を向けた瞬間、男の子は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ちょっと、返せよっ!」
私はそれを無視して女の子の前で腰を屈め、満面の笑顔と共にぬいぐるみを差し出した。
「はい、これ」
女の子はしばらく戸惑って、私の顔とぬいぐるみと男の子とを見比べていたが、やがて納得したようにひとつ頷いて、
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ぬいぐるみを受け取って、どこかへと走り去って行った。
いいことをした後は気分が良い。くさくさした感情も薄れたので、腰を上げて自分の病室に帰ろうとして、はたと、立ちはだかる男の子の存在に気付いた。
「どうして返しちゃったんだよ!」
必死に問い詰める男の子は、ぬいぐ
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