敬愛する遠藤周作先生への手紙 〜神戸旅行記〜 /服部 剛
 
った主人は私のことなんか忘れて何処かを吹く風になっているのに、ありがとう・・・」と、とても喜んでくださいました。 

 阪急電車に乗り、夜の六甲山の麓の家々の灯りを見ながら、人それぞれの哀しみや、僕の哀しみと弱さを打ち破る瞳で夜の車窓をじっと見つめていました。この地で敬愛する遠藤先生が、幼年期に夫と別れた母と過ごしていたことを思い、そして、この地で十数年前に震災でたくさんの命が失われたことを思うと、六甲山の麓の家々の灯から、この世を去った多くの魂達の声が聴こえてくる気がして・・・この胸は、神戸という地を、言葉にならぬほど愛惜しく思う気持に溢れ、僕は涙腺を緩ませながら、冷たい車窓に額を押しつけて
[次のページ]
戻る   Point(2)