「終焉」/散布すべき薬物の所持
は発狂する御仁もおり、ショック死する貴婦人もいた。僕は、黒富アダム著「終焉」という本を読んで巨大毛虫の襲来を前以て知っていたので、さりとて驚くでもなく、静かに、毛虫の極彩色の卵の頭が覗くビルディングの屋上で、板の到来を待った。――
僕は黒い板に掴まって逃げのびるのだ。人々の中で誰が空に吸い込まれる白や黒の板などに掴まるだろうか。助かり、逃げのびる、これだけの為の板なのに、だ。 この板に掴まって空へ、宇宙へと飛ぶとどうなるか、それは感じてみなければわからないだろう。
ただ、恐怖心はなかった。水色の空は宇宙の無機物的な残酷さをさっぱりと覆い隠していて、「終焉」という結末、誰の身にも降り
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