「終焉」/散布すべき薬物の所持
 
降りかかる、暴虐の最先端である事を、微塵も感じさせなかった。それもまた真理であり、「終焉」に関して記してある「終焉」という文献がこの世のどこかに存在してしまっている、という宇宙的トートロジーすらも闇の領域へと押しやっていた。

 巨大毛虫は、ひたすら人々を押しつぶす。ビルディングをなぎ倒し、その下敷きになる人もいる。自身の産み付けた卵すらもなぎ倒す。しかし、卵はマシーンなので完全に破壊されることはない。またそこから孵化、幼虫→亜成虫の過程を永遠に繰り返すのみだ。死、死の光景、すなわち全員が個々に感じている「終焉」のみがこの世界で横たわっていた。そんな事もわからずに助かった気でいた僕は、空の下で逃げまどう人々すらいなくなった光景を鼻で笑った。
 すると空が突然、水色から赤紫色へと色を変えた。僕は板から飛び下りなければ、と思いながらも、下へ下へと飛散する脳髄の恐怖を感じ、例え空の色が変わろうとも、絶対に板を離すわけには行かなかった。しかし、無慈悲にも空の色は、ベルガモットと形容すべき赤紫から静脈血のようなどす黒の赤へと変わっていったのであった。(了)
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